あなたの顧客は誰ですか?

株式会社ドモドモコーポレーション 代表取締役 遠田幹雄

※技術と普及 2001年8月号


 スーパーや野菜直販場などで、生産者の顔写真が置いてある例が増えている。生産者の顔が見える方が売れるから、というわけだ。

 しかし生産者はこれだけで満足して欲しくない。なぜなら、生産者が消費者の顔を知らない一方通行だからだ。一方通行というのは関係が薄い。薄い関係だと今日はよくても明日はどうかわからない。

 社会構造は変わった。昨日の延長線上に明日はない。21世紀になり、成熟経済はデフレ経済へとシフト。デフレ経済とは今日より明日の売上が減るということだ。

 では業界内の全企業の売上が減るか。これは違う。大部分の企業は売上を減らすが、売上を増やす少数の企業もある。つまり3つの層に分かれるのだ。@売上激減組、A売上微減組、B売上増加組。この差は何か。

 例として、前段の野菜売場にあてはめてみよう。※ @売上激減組:自分の顔写真を公開しない生産者。A売上微減組:自分の写真を公開している生産者。B売上増加組:自分の写真を公開しさらに自分の顧客の写真を持っている生産者。

 @やAの売上減少組とBの売上増加組の大きな違いは、消費者との関係の深さだ。Bの例では、顔も名前も含めて互いによく知りあっている。生産者からみて消費者というよりは顧客、いや友人と呼ぶべきかもしれない。深く長くつきあう。少々のことで両者の関係は壊れない。年賀状や時候のはがきなどのやりとりもある。電子メールも使う。友人なら写真を持っているだろう。だから生産者が重要な顧客の写真を持っていてもなんの不思議でもない。むしろ当然といえる。

 しかし、この友人ともいえる「顧客」は手ごわい。付き合って行くには骨が折れる。昨日まで「おいしい」と言ってくれたものを、今日は「まずい」と言う。「なぜ味が変わったか説明しろ」と言う。かなりわがままだ。さらに「毎年おいしくしないと買わないぞ」と笑顔で脅される。

 この一人の顧客を満足させるために毎年、品質向上策を練らなければならない。長いつきあいだからと、手抜きを許してくれるほどやさしくない。その点は勘違いしてはいけない。友人ではなく、友人のような関係の顧客なのだ。

 この手ごわい顧客が満足し、「いやぁ今年のはうまかった」と言ってくれたときに感動がある。生産者と顧客で、この感動を共有して初めて本物といえるのではないだろうか。目の前の顧客に満足してもらえないものは、世界の誰も満足しないし買ってくれない。これからの社会構造の中ではこれが常識になっていくだろう。

 ところで、あなたの顧客は誰ですか。ちゃんと顔と名前が一致しますか?


●顧客との関係を発展させることを最近ではCRM(カスタマーリレーションメネジメント)という。要は、顧客と生涯付き合うという関係を構築できるかどうか。生涯顧客価値を考慮することだ。

●生涯顧客価値とは、ある顧客が当社の商品を生涯の累積でいくら買ってくれるかということ。生涯顧客価値の視点では例えば、千人の客に三千円の米を売るのも、一人の客に毎月一万円の米を二五年間売るのも、合計額は同じ参百万円。変化の激しい社会環境の中で経営的に安定しているのはどちらだろうか。

※ここではわかりやすく表現するため筆者の独断で大胆に分類した。必ずしもこの分類どおりに推移するとは限らない。あくまで推測の「モデル」であり例。写真公開をせずとも売上や利益を増やしている生産者で気分を害された方がいたら深くお詫びします。


株式会社ドモドモコーポレーション
domo-domo.com

↑トップページに戻る