石臼で蕎麦を挽くのには理由があるが、電動石臼と手回しの石臼ではそば粉にどのような違いがでるのだろうか

蕎麦処けんちのそば秋も深まり、いよいよ新そばのシーズン。福井県産の新そばも解禁となったようだ。蕎麦好きにとっては楽しみな季節到来である。昨日は今年オープンしたばかりの石臼手挽き蕎麦の店に初めて行ってみた。金沢市袋畠町にある「蕎麦処けんち」という民家改造の蕎麦屋である。うまい蕎麦だった。
玄そばは福井県奥越産を取り寄せ、店主自らが手回しの石臼を使い製粉。そのそば粉を使って手打ちした蕎麦を出している。石臼手挽きの蕎麦を出す蕎麦屋は希少価値である。県内でも数軒しか無いが、どの蕎麦屋のそばもいい。

けんちのそば

石臼手挽きの蕎麦粉で手打ちした蕎麦。そばとつなぎの比率は8対2で、いわゆる二八そばである。

けんちのそば

蕎麦処けんちの蕎麦メニューは、ざるそば750円のみ。(大盛りにすると900円)蕎麦好きなら一度味わってみてほしいいい蕎麦である。

石臼挽きの蕎麦はなぜうまいのか

玄そばを蕎麦粉にすることを製粉というが、蕎麦の製粉は石臼挽きがいい。製粉方法には、ロール製粉と石臼製粉という大きく2つの製法がある。ロール製粉は大量生産に向いているが、製粉時に発生する機械の熱で繊細な蕎麦の風味が消失してしまう。蕎麦はとても熱に弱いのだ。一方、石臼挽き製粉だと、そば粉に熱が伝わりにくい。さらに石臼で製粉される蕎麦の粒子形状はロール製粉に比べると細長く、蕎麦を打った時の滑らかさやぷりぷり感がでやすくなるそうだ。蕎麦なら圧倒的に石臼挽きがいいのである。(以下のそば粉の電子顕微鏡の写真はhttp://www.nikkoku.co.jp/sobanokuni/hikari/hikari.htmから引用)

石臼挽きとロール製粉のそば粉の粒子の違い

さらに石臼挽きでも電動式と手動式がある。
一般的な石臼挽き蕎麦は電動式の石臼で挽いたものである。

石臼は電動式が一般的で、手挽きする蕎麦屋は非常に少ない

石臼は電動でも一分間に20回転くらいと、かなり遅い速度だ。石臼が回るときの石の模様を目で追えるくらい。回転速度が遅いほど、熱が発生しないため、いいそば粉になる。一方、回転速度が遅いと生産性は低い。福井県には数軒の蕎麦専門の製粉会社があり、いずれも電動の石臼で蕎麦を挽いている。以前、福井市のカガセイフンというそば粉専門の製粉工場で石臼を見学したことがある。石臼が1回転してできるそば粉はたったの2グラム程度だそうだ。そのこだわりから全国から注文がくるほど品質がいい蕎麦粉を製粉している。(以下の写真は以前見学したときのカガセイフンの電動石臼)

100年を超える石臼

カガセイフンを例にとると、福井県産の玄そばを石臼で挽いて3時間以内に真空パックにしてクール便で発送するという手のかけようだ。そば粉は挽きたてがよく、時間の経過とともに酸化による品質低下が起きるからだ。このようなそば粉専門の製粉会社で製粉されたそば粉の品質は高い。あえて、蕎麦屋が自分で手挽きしなくても、このような製粉会社の蕎麦粉を使えば高品質の手打ち蕎麦を提供することができるだろう。

▼カガセイフンの電動石臼

だから石臼を手動で回す「手挽き」は選択されないのが一般的である。趣味ならいざしらず、商売としての蕎麦屋では効率が悪すぎるのである。

手動式の石臼では生産量が少なすぎてとても商売として提供できるほどの量を製造できないほど非効率的だからだ。羽咋市の妙成寺の近くにある浄楽という蕎麦屋も石臼手挽きの蕎麦屋だが、「1時間かけて石臼を回しても数名分のそば粉しか製粉できない」というような話をされていた。仮に10食分の蕎麦を用意するとなると、蕎麦を石臼で挽き蕎麦を打つという作業だけで半日近くかかってしまうかもしれないのだ。(以下の石臼の写真はそば処浄楽のもの)

手挽きの石臼

それでも手挽きで石臼を回す蕎麦屋があるのはなぜなのか?

それほど手間をかけてでも手挽きするのは石臼手挽きのそば粉で打った蕎麦はうまいからだ。

蕎麦がおいしくなる3つの理由は以下のとおりである。

1.最も大きな理由は鮮度だ。
蕎麦は「挽きたて、打ちたて、茹でたて」という「3たて」がうまいといわれている。とくに蕎麦粉の「挽きたて」に関しては自家製粉が一番確実だ。今日打つ蕎麦は、朝一番に挽いた「挽きたての蕎麦粉」で...ということができるのは自家製粉しかない。
ただし、単に自家製粉というだけなら、設備として電動石臼を導入する方法でも解決できる。実際に、電動の石臼を設備導入して挽きたての蕎麦粉で打った蕎麦を提供している手打ち蕎麦屋さんはそれなりにある。挽きたてを重視するなら電動石臼の導入のほうが現実的である。

2.石臼の回転ムラは魔法を生み出すから。
電動式の石臼挽きと手動の石臼には明らかに違いがある。それは石臼の回転速度ムラだ。手で回す石臼は回転速度が一定にはできない。必ず回転ムラが起きるのだが、この回転ムラが蕎麦粉にとっていい作用を起こすらしい。回転ムラが蕎麦の粒子に適度なばらつきというかゆらぎが生まれ、大小さまざまな粒子のそば粉ができる。非常に細かなそば粉と粗めのそば粉が混在することで、打ち上がった蕎麦が独特の透明感とぷりぷり感を出してくれるのだ。

3.自在なコントロールが可能だから。
もちろん極端な粒子の大小は問題があるが、ふるいにかければある程度の幅に均一化することはできるため、蕎麦粉の仕上がり具合を自分でコントロールできる。
また、重い石臼を回すのでゆっくりとしか回せない。おそらく1分間で数グラム程度しか製粉できないだろうが、その分そば粉のできあがり具合をその都度、目でフィードバック確認できるというメリットもある。

3つの理由のうち、2と3は石臼手挽きでしか実現できない。これが手挽きする重要なポイントではないだろうか。

さて、今回いただいたお蕎麦を打った蕎麦処けんちのご主人は、石臼を手で回す手挽きにこだわる理由をこう語った。

「手をかけたものほどおいしくなるからです。心をこめて蕎麦を作ってお客様に食べていただきたい。」

心意気だ。上記3つの理由ではない4つのめの理由は心意気だった。技術的なこと云々ではなく、心情的な理由が主なのである。

この言葉を聞いて、なんだかとても清々しい気持ちにさせられた。ご主人はもともと加賀友禅にかかわる職人だったそうで極めて職人気質の強い人なのだろう。

蕎麦処けんち
http://soba.sindan.org/kenchi/

この蕎麦屋については蕎麦の食べ歩き北陸という蕎麦専門のブログのほうで紹介した。

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