法人化というと「株式会社」がもっとも一般的な組織形態ですが、実は「株式会社」以外にも法人格を持つ組織形態があります。それは「持分会社」といいます。持分会社とは「出資者が同時に経営者でもある」という特徴があります。持分会社はさらに3つの分類があり、それは「合名会社」「合資会社」「合同会社」です。
個人事業主が持分会社を選ぶ場合は「合同会社」になります。合同会社は2006年の新会社法から設立可能になった会社形態で、アメリカのLLC(有限責任会社)をモデルにしていることから、日本でも合同会社のことを「LLC」と言うようになりました。
個人事業主が法人化するなら
株式会社か合同会社(LLC)か
日本では株式会社が会社形態としてもっとも一般的です。会社組織の9割以上が株式会社です。(当社も株式会社です)
一方、合同会社(LLC)は知名度が低いのが難点ですが徐々に増えています。世界的に有名なGAFAという4社のうち、GoogleもAmazonもAppleの3社が合同会社(LLC)です。なんとFacebook(META社)以外が全部合同会社(LLC)というのは驚きですね。
株式会社か合同会社(LLC)かという選択をするには、この2つの組織形態の違いを知っておきましょう。
株式会社と合同会社(LLC)の違いと共通点
共通点
株式会社と合同会社(LLC)の共通点は以下のとおりです。
- 法人格を有する
- 責任範囲が有限である
- 法人税の対象となる(法人課税である)
- 法人登記が必要
- 代表者の任命が必要
- 設立に必要な最低人数は1人
- 最低資本金は1円
- 社会保険に加入する義務がある
なお、法人課税は年額で最低でも7万円は必要であり、仮に業績が赤字でも収める必要があります。
違い
株式会社と合同会社(LLC)の違いを表にしてみました。
項目 | 株式会社 | 合同会社(LLC) |
---|---|---|
設立に必要な費用 | 約25万円 | 約10万円 |
組織の意思決定方法 | 株主総会、取締役会 | 内部自治のため自由 |
財務の公告義務 | あり(※ただしほぼ非公開) | なし |
社会的な信用度 | 高い(認知されているため) | 少し低い(※知名度が低いため) |
経営者への月額報酬の支払について | 全額が経費扱いとなり、所得税を源泉処理する | 事業利益の分配金という性質があることから源泉税を徴収しないこともある※ |
※財務の公告義務に関して、株式会社は中小企業でも公開すべきということになっていますが罰則規定がないこともありほとんどの企業が公開していません
※社会的な信用度について、合同会社(LLC)が低いというのは知名度が低いことによるイメージであり今後知名度が向上すれは徐々に緩和されていくと思われます
※合同会社(LLC)の利益分配は法人税を収めたあとに経営者の所得として扱われるため所得税の計算が後回しとなり確定申告は必須になります
スモールスタートに合同会社(LLC)は最適です
こうして株式会社と合同会社(LLC)を比較検討すると、法人化するなら合同会社(LLC)のほうがメリットが多くてよさそうです。
とくに1人事業主で法人化するなら最適だと思います。
・株式会社のメリットがほぼそのままある
・会社の設立や運営がしやすい
ということで、スモールスタートには合同会社(LLC)は最適だということがいえそうです。
いずれ会社組織が大きくなり従業員の雇用も増えてきたら、あらためて株式会社化するかどうかについて再検討する機会があるかもしれません。しかし、GoogleやAmazonの日本法人が、あえて株式会社から合同会社(LLC)に組織変更している経緯をふまえると合同会社(LLC)のままで運営していくことも問題ないと思います。
個人事業主にするか法人格にするか
すでに個人事業主として事業活動をしている場合、そのまま個人事業主として継続するか法人格を持った組織(株式会社か合同会社LLC)に変更するかについても検討してみましょう。
法人化するメリット
個人事業主が法人化する場合は以下のようなメリットがあります。
- 節税になる: 法人税率は個人の所得税率よりも低い場合が多く、特に利益が多い場合には税金の節約につながります。
- 信用力の向上: 法人は信用度が高く、銀行融資の取得やビジネスの取引先からの信頼を得やすくなります。とくに信用保証制度などを活用すれば個人事業主よりも法人のほうが融資を受けやすいです。
- 責任の限定: 法人は個人とは別の財産を有しており、個人の責任と法人の責任が分離されます。とくに株式会社や合同会社(LLC)は有限責任であり、事業に関連するリスクが個人の財産に直接影響を与えることが少なくなります。
- 社会保険の適用: 法人化することで、社会保険や厚生年金に加入できるようになり、より手厚い社会保障を受けることが可能です。
- 事業の継続性: 法人は個人とは別の存在なので、経営者が変わっても事業を継続しやすいです。
- 専門性の強調: 法人化することで、事業の専門性や信頼性を外部に示しやすくなります。
法人化のデメリット
- 設立・運営コストの増加: 法人設立には初期費用がかかり、会計や税務処理の複雑化に伴う継続的なコストも増えます。
- 手続きの複雑さ: 法人の設立と運営には多くの手続きが必要で、一定の管理負担が伴います。
- 税務申告の複雑化: 法人税、消費税などの申告手続きが個人事業主より複雑になり、専門家のアドバイスが必要になることが多いです。
- 透明性の要求: 法人の財務状況は比較的透明にされる傾向があり、場合によっては詳細な情報開示が求められます。
- 利益の分配制限: 法人の利益は、配当などの形で個人に還流する必要があり、自由度が制限されることがあります。
なお、小規模な法人の場合は銀行融資を受けようとする場合などで経営者の個人保証を求められることがあります。その場合は法人化したメリットがあまり感じらないということになるかもしれません。ただし、日本には信用保証制度というしくみがあり、法人であれば制度の恩典を受けやすくなります。
事業を伸ばしたいなら法人化を勧めます
ここまで、個人事業主と、株式会社や合同会社(LLC)などの法人格について比較しながら検討してきました。
私がここで申し上げたいことは、「事業を伸ばしたい」という成長意欲があるのなら法人化することをお勧めします。
その理由は制度面以外の要素です。特にマインド面や心理的側面でのメリットは、以下のように考えられます。
マインドセットの変化
- プロフェッショナル意識の強化: 法人としての運営は、事業主に対してプロフェッショナリズムと責任感を高めます。これは自己意識の変化を促し、ビジネスに対するより真剣な取り組みを生むことがあります。
- 自己実現と達成感: 法人化は事業主にとって大きな成果であり、自己実現の達成と感じられることが多いです。これはモチベーションの向上につながります。
- ビジネスの正当性と自信: 法人としての地位は、事業に対する正当性を高め、経営者自身の自信にも繋がります。
社会的認識の変化
- 外部からの認識の変化: 法人化すると、外部から見たビジネスの信頼性が高まります。これにより、取引先や顧客からの評価が向上する可能性があります。
- ネットワークの拡大: 法人としてのステータスは、新しいビジネスの機会やネットワークの拡大に寄与します。
長期的な視点
- 事業の継続性と遺産: 法人化により事業の継続性が確保され、将来的に事業を継承したり、自分の遺産として後世に残したりすることが容易になります。
- ビジョンと目標の明確化: 法人化は、事業主に長期的なビジョンと具体的な目標を設定する機会を提供します。
結論
法人化は、単に制度的なメリットだけでなく、経営者のマインドセットや社会的認識、長期的な事業運営においても重要な影響を及ぼします。
法人化することで、「事業で夢を実現」していただきたいと思います。応援します。
この記事を書いた遠田幹雄は中小企業診断士です
遠田幹雄は経営コンサルティング企業の株式会社ドモドモコーポレーション代表取締役。石川県かほく市に本社があり金沢市を中心とした北陸三県を主な活動エリアとする経営コンサルタントです。
小規模事業者や中小企業を対象として、経営戦略立案とその後の実行支援、商品開発、販路拡大、マーケティング、ブランド構築等に係る総合的なコンサルティング活動を展開しています。実際にはWEBマーケティングやIT系のご依頼が多いです。
民民での直接契約を中心としていますが、商工三団体などの支援機関が主催するセミナー講師を年間数十回担当したり、支援機関の専門家派遣や中小企業基盤整備機構の経営窓口相談に対応したりもしています。
保有資格:中小企業診断士、情報処理技術者など
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