農業

遺伝子組み換え作物の怖さを感じた映画が「モンサントの不自然な食べもの」だった

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モンサントの不自然な食べもの
「モンサントの不自然な食べもの」という映画の上映会が松任文化会館であった。この上映会には、渡邊智恵子さんの講演会と、渡邊智恵子さんと井村辰二郎さんとの対談というあわせて3つのセッションが組まれており、とても内容が濃い。500名を超える参加者が集まった。
渡邊智恵子さんは、オーガニックコットンを扱う衣料ビジネスを展開しており、NHKのプロフェッショナル仕事の流儀で紹介されたり、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010のリーダー賞を受賞したりと、大活躍している有名人。まずは渡邊智恵子さんの講演が始まった。

渡邊智恵子さんの講演

渡邊智恵子さんの講演

渡邊智恵子さんの講演は、自分の会社の経営理念の紹介から始まったのが印象的だった。「オーガニックコットン製品を通じて社会貢献する」というのは、ビジネスにも社会にもアプローチしている点でとても好感が持てる。行動基準の「四方よし」というのは、「三方よし」を一歩進めた考え方だった。三方よしとは、売り手よし、買い手よし、回りよし(回りの環境や社会によいこと)であった。渡邊智恵子さんがいう「四方よし」には、「作り手よし」が入っている。とくに農業生産の現場に着目している点が特徴的だ。

通常のコットン(綿花)の農業生産は社会に多大な負荷をかけているという。大量の農薬による土壌汚染や大気汚染。後進国では児童の長時間労働と農薬による健康被害が大問題だ。綿花は労働集約型の農業生産物で、とくに収穫は手作業で丁寧に行わなければならない。そのため未成年の児童が人出として駆り出されている。インドでは十歳前後の女子が畑で朝から晩まで作業し学校に行けないという。そして農薬まみれの綿花によりやがて健康被害を引き起こしている。

このような状況はよくない。そのためにどうするか。渡辺智恵子さんも悩んだという。そしてその答えは「オーガニックコットンを買い支えること」。農薬を使わなず正しく生産された綿花ならば上記のような不幸なことは起きにくい。高くてもオーガニックコットンを買い続けていけば農業生産者にも日が当たり現場の状況は改善されていくはず。「オーガニックコットン製品を通じて社会貢献する」という理念どおりである。

「モンサントの不自然な食べもの」上映

「モンサントの不自然な食べもの」が上映され110分の鑑賞。映画はフランスで制作されたもので、音声はフランス語と英語だが日本語の字幕が入っていた。グーグルの検索画面で様々な関連キーワードを検索し、表示させた画面から次の取材シーンへと移り変わるおもしろい構成だ。

この映画の内容は衝撃的である。GMO(遺伝子組み換え作物)の問題を追及しており、とくに世界的バイオ企業である「モンサント社」がターゲットになっている。モンサント社はGMO業界で世界シェアの半数以上を握っているといわれているGMOの巨人である。

ラウンドアップ
モンサントを代表する製品は「ラウンドアップ」。ラウンドアップは強力な除草剤だ。ラウンドアップをかけると雑草は枯れてしまう。しかも、ラウンドアップに耐性を持った種があり、その種で育てた作物なら枯れない。農業生産の現場は雑草との戦いである。だからラウンドアップは魔法の薬として普及した。

ラウンドアップをかけても枯れない作物の種がGMO(遺伝子組み換え作物)である。遺伝子を操作することにより除草剤をかけても枯れないようにした。雑草だけが枯れ、作物は枯れない。同様の構造で防虫剤もある。この特徴は、種と農薬がセットになっていることである。GMOの種を使うと、そのGMOに耐性に効く農薬でなければ効果がない。

しかもGMO(遺伝子組み換え作物)は自然の作物を汚染していく。GMOの作物にもおしべやめしべがあるわけだから花粉が飛ぶ。その花粉を自然の作物が受粉してしまうと、その自然な作物はもはや自然な作物ではなくなってしまう。映画では奇形となってしまったトウモロコシの事例が多数紹介されていた。

モンサントの不自然な食べもの
奇形となってしまったトウモロコシからもはや自然な種はとれない。農家が農業生産を続けたければ、自分の作物から作った種ではなく、GMOメーカーから種を買うしかない。そうなるとGMOメーカーの農薬を使わないとうまく育たない。つまり、GMOメーカーなしで農業ができなくなってしまうのである。

だから、メーカーとしては独占できる。種ビジネスも農薬ビジネスも同時に独占できる。まさに農業生産の現場を支配するという構造ができあがる。

これは恐ろしいことである。一民間企業が世界の農業を支配することになるかもしれない。農業テロということをいう評論家もいるくらいである。

もっと恐ろしいことは、アメリカの「国としての態度」である。バイオ産業で国際競争に勝とうという政策的な思惑が強く見え隠れしている。「遺伝子組み換え作物」と「品種改良の作物」を同等に扱っている先進国はアメリカだけだろう。この規制緩和措置により、GMO(遺伝子組み換え作物)の種の生産は劇的に増えた。

アメリカ以外の先進国はGMO(遺伝子組み換え作物)の生産や輸入を禁止していた国が多かった。とくにEUヨーロッパ諸国は反対の立場が多く、この映画がフランスで作られたのも印象的な事実である。

しかし、世界的にGMO(遺伝子組み換え作物)の汚染が進んだことにより、反対していた国も、なし崩し的に許可せざるを得ない状況が進んでいるという。

▼「モンサントの不自然な食べもの」予告編

渡邊智恵子さんと井村辰二郎さんの対談

次は最終セッションの渡邊智恵子さんと井村辰二郎さんの対談。

渡邊智恵子さんと井村辰二郎さんの対談
重い内容の上映のあとだけに空気も重苦しい。GMOが世界の農業を圧巻していく現状を目の当たりにして悲壮感も漂う。

しかし、井村さんが明るい笑顔で「自然が好き」という言葉が一明の光のように感じた。そう、「自然が好き」というのはとても自然な感覚である。不自然な農作物は食べたくない。そのような生活者としての自然な感覚を強く持ち続けていくことが重要である。

ひとりの生活者として食品および農業の未来を考える

ひとりの生活者として食品および農業の未来を考えることが必要だ。たったひとりの消費者でも「買い支えること」はできる。正しい農産物を原料にした正しい食品を買うことは、投票行動である。小さな一票でもその投票は将来の世界を変えることができるかもしれない。

井村辰二郎さん(左)と遠田幹雄
講演前で緊張しているはずなのにリラックスした表情の井村辰二郎さん(左)と、午後1時すぎに会場入りした直後に遠田とツーショット。

Mattobunkakaikan1200seki今回は収容人数1200人の大会場
白山市松任文化会館
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