人時生産性(にんじせいさんせい)とは、企業の労働生産性を表す指標で、人が1時間あたりどれくらいの粗利益を生んでいるかを示しています。
計算式は単純で、粗利益総額÷総労働時間で計算されます。財務指標から年間の粗利益額を求め、あとは年間の全従業員の総労働時間を計算して割れば、1年を通じての人時生産性が計算できます。
この人時生産性が3600円以上あるかどうかがひとつの分析指標になります。
人時生産性で経営の効率を分析する
経済産業省・中小企業庁で公開されている資料より
経済産業省や中小企業庁では中小企業の各種分析資料が公開されています。
企業規模別の人時生産性
上記出典:よみがえるリアル店舗https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/distribution_industry/pdf/20230331_1.pdf
業種別の人時生産性
上記出典:中小小売業・サービス業の生産性分析
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/keieiryoku_kojo/pdf/005_04_00.pdf
日本国内中小企業の人時生産性は平均で3600円に満たない
上記2つのグラフから日本の中小企業で業種別・人時生産性を抽出すると以下のようになります。
- 建設業:3,704円/時間
- 製造業:2,837円/時間
- 運輸業:2,516円/時間
- 卸売業:3,671円/時間
- 小売業:2,547円/時間
- 宿泊業:2,805円/時間
- 飲食店:1,902円/時間
- 情報通信業:2,879円/時間
上記の業種別人時生産性を見ると3600円を超えているのは建設業と卸売業だけで、他の業種は3000円以下のところが多いようです。大企業では同じ業種でも5000円を超えているところが多いので、中小企業の人時生産性は大企業に比べると劣っていることがわかります。
一方で、中小企業庁の分析では、どの業種でも上位25%の平均ではかなり生産性が高く約4000円の人時生産性を確保しています。
このことから、平均的な中小企業の人時生産性(ひとり1時間あたりの粗利益額)が低いことが経営課題だということがわかります。
※なお、2つのグラフは調査年度が違うようで数値に若干の違いがありましたが、数値は誤差程度と思われましたので、年度の新しいほうを採用しています。
人時生産性の計算式
人時生産性とは、従業員1人が1時間あたりにどれだけの粗利益を生み出しているかを示す指標です。
計算式は以下の通りです。
人時生産性 = 粗利益 ÷ 総労働時間
- 粗利益 = 売上高 – 売上原価
- 総労働時間 = 従業員ごとの労働時間の合計(平均労働時間×従業員数)
人時生産性は、年間、月間、週間と期間に応じて計算することができます。
人時生産性を向上させた事例もあります
人時生産性を向上させた中小企業の事例をいくつか紹介します。これらの事例は、様々な業種における効果的な取り組みを示しています。
- IT企業の事例
- 取り組み:人事情報の一元管理システムを導入
- 効果:人材配置の最適化を実現し、異動後の社員の即戦力化が進んだ
- 結果:人時生産性が向上
- 旅館業の事例
- 取り組み:
- 「やめる仕事の発見」と「省力化できる取組み」を実施
- 各部屋での食事や布団敷きサービス、冷蔵庫での飲み物販売等を廃止
- 下足番をなくす、案内表示を増やすなどの施策を実施
- 結果:人時生産性が当初の1,400円程度から5,000円程度に改善
- 取り組み:
- 製造業A社(従業員50名)
- 取り組み:
- 作業工程の見直しと標準化
- 多能工化の推進
- 設備投資による自動化
- 効果:生産性が30%向上、残業時間が月平均20時間から5時間に減少
- 取り組み:
- サービス業B社(従業員30名)
- 取り組み:
- ITシステムの導入による業務効率化
- 顧客データの一元管理
- オンライン予約システムの導入
- 効果:顧客対応時間が40%削減、新規顧客獲得率が20%向上
- 取り組み:
- 小売業C社(従業員20名)
- 取り組み:
- POSシステムの導入
- 在庫管理の効率化
- 従業員のスキル向上研修
- 効果:在庫回転率が20%向上、売上が15%増加
- 取り組み:
人時生産性向上のための共通点
これらの事例から、人時生産性向上のための共通点として以下が挙げられます。
- 業務プロセスの見直しと効率化
- 不要な業務の廃止
- ITシステムやテクノロジーの活用
- 従業員のスキル向上と多能工化
- データ管理と分析の強化
これらの取り組みを自社の状況に合わせて適用することで、中小企業でも人時生産性を大幅に向上させることが可能です。ただし、生産性向上と同時に、従業員の満足度や顧客サービスの質を維持・向上させることも重要です。
人時生産性を高めるための重要な3大対策
人時生産性を高めるための最も重要な要因は、以下の3点に集約できます。
- 業務プロセスの最適化と効率化
業務プロセスを見直し、無駄な作業や重複作業を排除することが重要です。例えば、株式会社サイゼリヤの事例では、インダストリアル・エンジニアリング(IE)に基づく取り組みを実施し、全ての工程における「動作」を秒刻みに分析してムダを発見・改善しました。これにより、厨房面積を半減させるなど、大幅な効率化を実現しています。
- 従業員のスキル向上とマルチタスク化
従業員一人ひとりの能力を高め、複数の業務をこなせるようにすることで、人時生産性が向上します。あぶらや燈千の事例では、「1人3役化」を推進し、一人の従業員が仲居係、フロント係、予約係の3つの役割を担えるようにしました。また、「業務レベル表」を作成して習熟度を可視化し、個々のスキルを標準化する取り組みも行っています。
- 不要な業務の廃止と労働時間の適正化
固定観念にとらわれず、本当に必要な業務に集中することが重要です。株式会社一の湯の事例では、「やめる仕事の発見」に注力し、各部屋での食事や布団敷きサービス、冷蔵庫での飲み物販売等を廃止しました。その結果、人時生産性が当初の1,400円程度から5,000円程度に大幅に改善しています。これらの要因は相互に関連しており、総合的に取り組むことで人時生産性を効果的に高めることができます。特に、業務プロセスの最適化と効率化は、他の要因にも大きな影響を与える基盤となるため、最も重要な要因と言えるでしょう。
ただし、人時生産性の向上を追求する際には、従業員の満足度や顧客サービスの質を損なわないよう、バランスの取れたアプローチが必要です。また、デジタル技術の活用(DX推進)も、これらの取り組みを支援し、さらなる生産性向上につながる重要な要素となります。
人時生産性の目標として「1秒1円」は有効かどうか?
人時生産性の目安として「1秒1円」、すなわち1時間あたり3600円という数値は、単純かつ直感的な指標であり、多くの業界で適用可能です。
どの業種や業態でも、おおむね上位25%の中小企業は、「1秒1円(1時間あたり3600円)」という人時生産性をクリアしています。
しかし、各々の中小企業としては、この目標値を設定する際には、以下の点に注意することが重要です。
業界や業種に応じた調整
- 業界の違い: 各業界や業種によって、生産性の基準や期待値は異なります。例えば、IT業界や製造業では、生産性の評価基準が異なる可能性があります。
- 業務内容の違い: 業務の複雑さや専門性によっても、生産性の目安は変わります。単純作業と高度な専門知識を要する業務では、同じ基準を適用するのは難しいです。
組織の特性
- 規模や構造: 大企業と中小企業では、生産性の向上に対するアプローチが異なる場合があります。また、組織の構造や文化も影響します。
- 従業員のスキルセット: 従業員のスキルや経験によって、生産性の目標達成が現実的かどうかも変わります。
現状分析とフィードバック
- 現状の把握: 現在の生産性レベルを正確に把握し、どれくらいのギャップがあるのかを確認することが重要です。
- 継続的なフィードバック: 生産性向上のための施策を実施し、定期的にフィードバックを行うことで、目標達成の進捗を確認します。
実行可能性とモチベーション
- 実行可能性: 目標があまりにも高すぎると、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。現実的な目標を設定することが重要です。
- モチベーションの維持: 達成可能な短期目標を設定し、達成した際には適切な評価や報酬を提供することで、従業員のモチベーションを維持します。
結論:「1秒1円、1時間3600円」という目標値は有効
「1秒1円、1時間3600円」という目標値は、直感的でわかりやすい指標として有効です。
ただし、業界や業種、組織の特性に応じた調整が必要です。また、現実的な目標設定と継続的なフィードバック、従業員のモチベーション維持が成功の鍵となります。目標値として設定する際には、これらの点を考慮し、段階的に適切なアプローチを取ることが重要です。
人時生産性についての解説記事
パープレキシティで調べた人時生産性のことをキュレーションページにしておきました。
出典なども明示されていますが、AI検索が拾ってきた内容を生成AIで要約していますので必ずしも正確ではないかもしれません。閲覧のさいにはご注意ください。
この記事を書いた遠田幹雄は中小企業診断士です
遠田幹雄は経営コンサルティング企業の株式会社ドモドモコーポレーション代表取締役。石川県かほく市に本社があり金沢市を中心とした北陸三県を主な活動エリアとする経営コンサルタントです。
小規模事業者や中小企業を対象として、経営戦略立案とその後の実行支援、商品開発、販路拡大、マーケティング、ブランド構築等に係る総合的なコンサルティング活動を展開しています。実際にはWEBマーケティングやIT系のご依頼が多いです。
民民での直接契約を中心としていますが、商工三団体などの支援機関が主催するセミナー講師を年間数十回担当したり、支援機関の専門家派遣や中小企業基盤整備機構の経営窓口相談に対応したりもしています。
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