近年、全国的に食料品・エネルギー・日用品などの価格が上昇しており、多くの家庭が「暮らしにくくなった」と感じています。2025年2月の総務省統計によれば、石川県では食料品価格が前年より18.7%上昇しており、特に子育て世帯や単身高齢者世帯での影響が大きいとされています。
こうした中、企業においても「従業員の生活をどう支えるか」が大きな課題となっています。その一つの手段として、今、「インフレ手当」が注目されています。
物価高対策としての「インフレ手当」
インフレ手当とは?
インフレ手当とは、物価の上昇によって実質賃金が目減りしてしまう従業員の生活を支えるため、一時的に支給される特別な手当です。
支給の方法には主に2つあります。
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一時金形式:年1回などでまとめて支給(例:5万円など)
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月額形式:給与に上乗せし、毎月支給(例:月額1万円)
2025年現在の調査では、企業の約26.4%が導入・検討中とされており、月額支給の平均額は約6,500円です。
石川県特有の事情:復興需要による人材確保の難しさ
特に石川県では、能登半島地震からの復興需要が高まり、建設や輸送分野では人手不足が深刻になっています。
以下のような求人が実際に見られます:
職種 | 月収換算 | 備考 |
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解体作業員 | 50~75万円 | 日給2~3万円 |
重機オペレーター | 最大90万円 | 高度技能者 |
建設管理技術者 | 約65万円 | 月給制 |
このような高収入と比較すると、多くの中小企業では給与水準に大きな差が生じており、人材流出のリスクが高まっています。
インフレ手当の導入によるメリット
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従業員の生活を直接支援
→ 月1万円で食費や光熱費の上昇分を部分的にカバーできます。 -
企業への信頼感・安心感の向上
→ 「会社が気にかけてくれている」と実感されることで、モチベーション向上にもつながります。 -
人材の定着と流出防止
→ 特に復興需要による引き抜き対策として一定の効果があります。 -
柔軟な運用が可能
→ 一定期間に限定するなど、将来の見直しも可能で、固定費の増加を抑えられます。
【事例1】従業員20人の町工場が取り組んだ「生活応援手当」
金沢市内の金属加工会社では、2025年4月から「生活応援手当」として従業員20人に月1万円のインフレ手当を支給しています。
背景と目的
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社員から「物価が上がって生活が厳しい」という声が複数ありました。
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経営者は、「会社として今できることを」と考え、1年間の時限措置として導入を決断。
費用と工夫
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年間支給総額:240万円
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社会保険料増加分:約30万円
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合計コスト:約270万円
→ 「1年限定」と明示し、終了時の混乱を防ぐ工夫をしています。
→ 社員説明会を実施し、制度の目的と経営状況を丁寧に説明。
社員の声
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「実際の生活に助かっている」
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「会社が自分たちを見てくれていると感じた」
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「この職場でがんばろうと思った」
→ モチベーションや定着率の向上が確認されています。
【事例2】従業員10名の食品企業が選んだ“ハイブリッド型”
金沢市郊外の食品卸と小売をしている会社では、従業員10名規模の小規模企業ながら、2025年春よりインフレ手当を導入しました。
しかし、同社では「ただの手当支給ではなく、将来も見据えた仕組みにしたい」と考え、“手当+ベースアップ”のハイブリッド型制度を導入しています。
制度の概要:
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基本給:月額5,000円アップ
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インフレ手当:月額5,000円(1年間限定)
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合計:月1万円相当の支援を実施
工夫したポイント:
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固定的な支援と柔軟な見直しの両立
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将来的には全額を基本給に統合する計画を明示
経営者は、「手当部分は今後の物価状況に応じて調整できる。一方で、ベースアップ分は社員への長期的な投資」と語ります。
この取り組みにより、社員の満足度は高く、特に若手社員からは「会社が長く働くことを考えてくれている」と好評です。
応用例:インフレ手当+ベースアップの“ハイブリッド型”
インフレ手当の導入にあたっては、「一時的な手当」だけでなく、「基本給のベースアップ」と組み合わせることで、より柔軟な制度設計が可能です。
【モデルプラン】
年度 | 基本給引き上げ | インフレ手当 | 備考 |
---|---|---|---|
初年度 | +5,000円 | 月5,000円 | 柔軟な制度運用 |
2年目 | +10,000円 | 月3,000円 | 手当は段階的に減額 |
3年目 | +15,000円 | 0円 | 全額をベースアップに統合 |
→ こうすることで、当初の支援性と将来の持続性の両立ができます。
また、資格手当や技能インセンティブと組み合わせることで、特定人材の引き留めにも効果的です。
柔軟な制度こそが中小企業の強み
「賃上げは難しい」と感じる企業も多いかもしれませんが、インフレ手当は一時的・限定的に導入可能であり、必ずしも大規模な制度改革が必要なわけではありません。
むしろ、会社の経営状況や従業員の声を踏まえて、できることから始めるという姿勢が、企業と従業員の信頼関係を築く鍵になります。
物価高対策まとめ
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インフレ手当は、物価上昇が続く中で従業員を支える現実的な手段です。
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支給方法や金額、期間は柔軟に設定でき、中小企業でも無理なく取り組むことが可能です。
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基本給とのハイブリッド型や、福利厚生・助成金制度との併用により、戦略的な制度設計が可能になります。
「できることを、できる範囲で」。
その一歩が、企業の魅力や定着率を大きく高める力になります。
まずは、自社に合った形で検討をはじめてみませんか?

この記事を書いた遠田幹雄は中小企業診断士です
遠田幹雄は経営コンサルティング企業の株式会社ドモドモコーポレーション代表取締役。石川県かほく市に本社があり金沢市を中心とした北陸三県を主な活動エリアとする経営コンサルタントです。
小規模事業者や中小企業を対象として、経営戦略立案とその後の実行支援、商品開発、販路拡大、マーケティング、ブランド構築等に係る総合的なコンサルティング活動を展開しています。実際にはWEBマーケティングやIT系のご依頼が多いです。
民民での直接契約を中心としていますが、商工三団体などの支援機関が主催するセミナー講師を年間数十回担当したり、支援機関の専門家派遣や中小企業基盤整備機構の経営窓口相談に対応したりもしています。
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